SPILT MILK


「・・・海?・・・」

突然、目の前に打ち寄せる波がひらけたような気がした。
幼い頃一度きり、父と母に連れて行かれた海。
寄せては返す波の、その心地よいリズム。
全ての生命の源たる世界がいま、広がっている。

「行かなければ!」
あそこにはあのひとがいる!
全てを打ち棄てて、僕は眼前の海に躍り出したい衝動に駆られる。

「・・・!?・・・」
密閉された宇宙服から上がってくる自らの体臭が鼻腔をくすぐり、
不意に生々しい現実に引き戻される。
海は消え去り、いまはあのひとの棺と化した、巨大な鋼鉄の塊が
木偶の如く横たわっている。
全てがもう遅い。鋼を焦がす電気の剣は、人間の身体など瞬く間に
蒸発させたろう。肉体が滅びたことにも気付かせずに・・・

一瞬の邂逅、永遠の別離。
全てを分かち合えるはずであったそのひとに、いまはもう
触れる術がない。
余りにも大きな喪失感に、胎児のように体を丸くする。
たまらなく、寒い。

『刻がみえる』と、あなたはいう。決して覆せないこの刻の流れをも
あなたは自由に泳ぎ、感じることができるというのか?
ならばなぜ、僕の元に戻ってきてくれないのだ。
それが叶わないのなら、なぜ僕も一緒に連れていってくれないのだ。

生きろというのか。今後決して満たされることのないこの世界で。
何をしろというのだ。僕にはもう役目などあるはずがないのに!・・・

・・・あなたが信じるというのなら僕も信じよう。
肉体などはこの世に留まるための器に過ぎない。
ひとはいつか時間さえ支配できると。
いつかはそのときがくると。

けれど、嗚呼、僕はとりかえしのつかないことを・・・
"There's no use crying over spilt milk."
こぼれたミルクは、もう元には戻らない・・・



え〜 さて、今回は趣向を変えてツヤツヤまっしろけでせめてみました。
数年前にふと思い付いたネタを具現化したものです。

エルメスをシンプルに仕上げたので、ホントはガンダムも工作なしの方が
バラスがいいのかもしれませんが、足の裏が見えるポーズなのにツルツル
ってのはどうも・・・とか考えて、そこそこディテールアップもしています。
でも仕上げはまっしろけなんですけどね。MILKってんだから仕方がない。

エルメスもディテール入れたら・・・と思わなくもなかったですが、
どうもモビルアーマーってのはムダにデカイだけって気がしてあんまり
イメージが湧きません。
どんな設備で、どういう行程で作って、巨体にどんな機能が詰まって
いるのか、想像つかないのですよ。
やる気のない外板処理もイヤなので、ピカピカに磨いてフィニッシュ
としました。

作品タイトルの " There's no use crying over spilt milk " は英語のことわざ。
ちょうど 『覆水盆に返らず』 とおんなじ意味ですね。